クトゥルフの呼び鈴

CALL BELL of CTHULHU

名状しがたき映画『沈黙』サイレンス

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この映画、とても気になっていたので観に行きました。遠藤周作の原作も以前読んだことがあり、当時はとても衝撃を受けた記憶があります。マーティン・スコセッシほどの巨匠が構想から28年もかかって完成させたというこの映画、いやあ、見応えたっぷりでした。2時間40分もあるのに、なんという緊張感の連続と持続、役者さんたちの白熱の演技を食い入るように見つめるばかりでありました。日本人にはちょっと理解しにくい主題ではありますけど、信仰とは教理教派の「型」の中にあるわけではなく、自分と神とを繋ぐ接点、つまり「心」の中にあり、それは誰にも奪えないんだなあと… 

 

いろいろ意見はあると思いますが、僕はこの映画のタイトルは『沈黙』ではあるけれど、結局のところ神はまったく沈黙していない、に賛成です。観ていてしんどい映画ですが、いろいろ考えさせられますし、カメラワーク、表現や演技は凄いし、観る価値は大いにありました。

 

 

さてさて、ここからは余談ですが、CoC的観点で観るとですね、この映画が煽る恐怖感というのもなかなかですよ。僕は原作読んでいたので、どこでどうなるかというのは分かっちゃったんですけど、原作未読の人には、主人公がいつ捕まって、どんな風に拷問(かなりエグいのでPG12指定です)にかけられたり殺されたりするかは分からないわけですよ。あれは本当に怖いですね。しかも、自分は正しいことをしていると思っているのに、時の体制の方針で弾圧されるわけで、もう、そのやるせなさときたら。シンドラーのリストを観た時も同じことを考えましたが、そういえばあの作品にもリーアム・ニーソン出てましたね。

 

終盤、刑場でひとりだけ残された信者の男が、刑吏と呑気に世間話をしていると、突然飛び込んできた役人に一瞬で斬首されるシーン、あそこはかなりきつい正気度ロール(まだ実際のプレイに至っていないのに、用語として覚えたので使ってみたくなりました)でした。

 

ほんとどうでもいい余談でした。(^_^;)

 

繰り返しますけど映画本体は素晴らしい文芸大作ですからね。

君の名は。2回目観てきて思うこと。

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一週間ほど前ですけど、『君の名は。』を観てきました。実は2回目の鑑賞です。初回は息子と一緒に行ったのですが、家を出るのが遅くなって、始まって最初のRADWIMPSの曲が終わる頃に入りました。それでもストーリーを理解するのは問題ありませんでした。事前知識が、男と女が入れ替わることくらいだったので、おっとそうくるのか!と、展開の起伏の激しさに翻弄されて、とても面白くはありましたが、なんだか不完全燃焼な部分が残っていたのです。

 

その不完全燃焼部分というのは、主人公である三葉と瀧が、そんなにもずっと互いをよくわからないまま探し続けるほどに、魅かれ合うようになる心の動きが理解できなかった点です。だって奥寺先輩の方が断然魅力的でセクシーだし、とかね。

 

で、なんとも釈然としなかったので、三ヶ月以上経って、もう一度劇場に足を運びました。まだ上映されてるってのが凄いですよね。ちなみに新海監督作品は『秒速5センチメートル』が好きなんですけど、地元の映画館でやってた記憶ないです。観たのはDVDでした。ここからプチネタバレですので長めに改行しておきます。(ところでパンフレット二種ありますけど、読み応えありますね。初回観に行った時は写真の左側のパンフだけだったんですが、売り切れて買えませんでした。)

 

 

 

 

 

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二度目なのでストーリー分かってます。時間軸がずれてるってことも、ティアマト彗星が落ちてくるのも分かっているので、三葉と瀧の心の動きを丁寧に追うことができました。そうすると、お互いが入れ替わっている過程で、確実にお互いが魅かれて合うのが分かるんですよね。なにせ、互いの身体と生活環境にどっぷり入り込んでいくわけですから。日記アプリで入れ替わっている間の出来事を記録し合うのも、なんだか文通してるみたいだし、お互いがお互いのことをどんどん深く知っていくわけです。なので憎まれ口を叩きながらも、心の距離はどんどん近づいていって、それが彗星落下の時にいったんプツンと途切れます。続く奥寺先輩とのデートの日、三葉は涙しますよね。瀧も心ここに在らずで、写真展で飛騨の風景に心奪われてます。奥寺先輩にも今は別に好きな子がいるでしょって言われるし。この時点でお互いの気持ちがお互いの方向にしっかり向き合ってます。

 

その後、連絡が取れなくなった三葉を探しに瀧は糸守の場所を必死で調べますし、奥寺先輩が司と一緒に付いてきますけど、恋愛感情全然なくなってますよね。三葉は涙が流れた後に、自分の気持ちを確かめに、東京に瀧に会いに行きます。(時間軸がずれてるので、瀧には気付いてもらえず、結果勝手に失恋→髪を切る)

 

この辺の二人の心の動きを二度目の鑑賞ではしっかり追えたので、カタワレ時に二人がほんの短い間、会うことができた時、マジックで瀧が三葉の掌に書いたメッセージ、そしてラストシーンでの再会の感動がひしひし伝わってきて、初回の鑑賞より断然心打たれました。さんざん言われている音楽と映像の融合具合もしっかり味わえて、スパークルがかかってるクライマックスのところは素晴らしかったです。うん。

 

初回で絶賛に至った方はちゃんと理解できてたんでしょうけど、僕は理解力いまいちなので、二回目を観てやっとこの作品の何が良いのかが分かったんだと思います。この作品は体の入れ替わりや時間軸のズレの謎を解いて、彗星から街を救うという冒険ミステリーではなく、時間を超えて二人が出会うというファンタジーなんです。だから西暦何年か、3年ズレてることにもっと早く気付かないのがおかしいとかの批判は実はどうでもいいんです。ファンタジーだから。でも僕のiPhoneもトップ画面の目立つところには年号出てないし、高校生って身近な周りのことに夢中で、時事に結構疎いから、3年ズレてても気付かない可能性は十分あるとは思います。そもそも身体の入れ替わり自体がファンタジーなんだから。

 

さて、全然関係ありませんが、ティアマト彗星は自然現象なので、彗星自体には糸守町を滅ぼしてやろうっていう邪悪な意志はないですよね。クトゥルフ神話じゃないですけど、ラスボスが邪悪じゃないと、物語全体が爽やかな話になりますね。『君の名は。』は邪悪な敵みたいな存在が出てこないし(せいぜい三葉の意地悪なクラスメイト三人組くらい)、秒速とかと違ってハッピーエンドだしで、とても爽やかな印象の残る作品でした。興行的にも大成功ですけど、新海監督が今後どんな作品を作るのか、興味深いですね。

 

 

SAN値が減るとか削れるとかが実感できる:チャールズ・ウォードの奇怪な事件

クトゥルフ神話TRPGの特徴であり、代名詞のように言われている「SAN値」(今は正気度と言うようですが、一般的にこの言い方が有名ですよね)これがよくわからん、というか、実感できないな〜とルールブックを読みながら思っていました。ちなみに一般的な解説は、以下のURLなんかが分かりやすいです。

 


でも言葉の解説じゃなくて、まさにSAN値が下がる、しかもかなりヤバいくらいまで一気に下がるのが、ひしひしと実感できるのがラヴクラフト全集2巻に収録されている「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」のあるワンシーンです。僕はこれを読んでいて、もう本当に戦慄しましたよ。

 

ちょっとネタバレになりますが、本作のヒーローであるウィレット医師が、広大な地下空間を探求中に、ずっと聞こえ続けている啼き声の正体がなんであるかを知ってしまい、見てしまった瞬間の描写、SAN値がゴリゴリっと下がるという実例として、これほどに似つかわしい場面はなかなかないんじゃないでしょうか。ホラー作品としてもこの地下の冒険のシーンは出色の出来です。他の部分は結構読みにくく、かなりくどい描写も多いのですが。

 

(嘘か本当かは知らないのですが)指輪物語の『旅の仲間』、モリヤの鉱山の奥深くでパーティがバルログと対決するシーン、ガンダルフが「ここは断じて通さん!」って杖で橋を撃ち壊して、バルログと共に奈落の底に落ちていくあの名シーン、あれをゲーム上で再現したくてD&Dが生まれたという話を聞いたことがあります。クトゥルフ神話TRPGもひょっとして、この作品を再現したくて生まれたんじゃないかななんて想像したりすると楽しいです。それくらいにこの『チャールズ・ウォードの奇怪な事件』はエンタメ色が強く、上述のシーン以外にもゲームの1シーンのようなドラマティックな箇所が散りばめられています。未読の方はぜひ読んでみてください。訳者は違いますが『チャールズ・デクスター・ウォードの事件』というタイトルで、青空文庫にも収録されています。(無料!)

 

クトゥルフ神話TRPG、ルールブック買いました。

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ちょっと前のことなんですけど、クトゥルフ神話TRPGのルールブックを買いました。その時は、スマホゲームばかりやりたがる中学生の息子に、何か別の楽しみが与えられないものかと考えて、なんとなくテーブルトークロールプレイングのことを思い出したんですよね。ひとりで画面とにらめっこするんじゃなく、想像力とコミュニケーション力を磨けると思いましたし。

 

クトゥルフ神話TRPGのことを初めて知ったのは、僕が中学生の頃だったと思いますが、主にシミュレーションゲーム(アナログのね)をテーマにしていた「タクテクス」という雑誌がありました。ホビージャパンから出版されていて、付録でミニゲームなんかがついていたりして、楽しい雑誌でした。当時僕は友人たちとD&D(ダンジョンズ&ドラゴンズ。TRPGの草分け的存在)をやっていたりしました。ちょうどロードス島戦記コンプティーク誌上で連載されていた影響だったと思います。そんな頃、全く新しいTRPGが日本上陸ということで『クトゥルフの呼び声』がタクテクス誌上で紹介されていました。それがクトゥルフという面妖な名を目にした最初でした。今回購入したルールブックの帯に、日本上陸30周年とあり、そうだったそうだったと記憶を新たにしました。

 

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クトゥルフをはじめとする奇妙で恐ろしい神々やモンスターの姿は、剣と魔法の世界に出てくるドラゴンやトロールとは全く違う魅力があり、なにかこう、心の奥底に棘のように引っかかるものがありました。でも当時の僕も御多分に漏れず、少年ジャンプ全盛期、強さこそ全て!の中二病に見事に感染していたので、TRPGとしてのクトゥルフを考えると、プレイヤーは普通の人間、敵は圧倒的に強いというか、そもそも人智を超えた理解不能な存在で、プレイヤーはすぐ発狂しちゃうという設定は、全然心に響かなかったのです。

 

それから幾星霜。いろいろ経験を経た中年のおっさんとしては、この設定は逆に魅力的に写るようになって来ました。現実世界ではD&Dのように英雄的な戦士や魔法使いにはなれない。理不尽で抗い難い力と戦っていかなきゃならないんです。でも、クトゥルフが降臨する世界ほどには理不尽じゃないよね?っていうのと、中学生の時は本当に嫌いだったホラーを楽しめるようになってきたという心境の変化。高校生くらいの頃にすぐに投げ出してしまったラヴクラフトの小説も、久々に読んでみたら、ちゃんと最後まで読めるし、なかなか面白かったです。

 

そうは言っても、クトゥルフ神話TRPGを実際に始めるのはなかなか難しそうです。いま、いろいろ調べてはいるのですが。そもそもルールブックが読みにくい! これ自体がネクロノミコンなんじゃないかと思うくらいです。(さすがに発狂はしませんが)ネットで得られる情報も、なんというか指輪物語で云えばガンダルフとかアラゴルンみたいにレベルの高い人が書いていたりして、なんというか旅立ったばかりのフロドのような、初心者の立場からの情報がほとんどない気がします。

 

なので、このブログはクトゥルフ神話TRPGについて、熟練したキーパー的な立場からではなく、初心者プレイヤーの気持ちで(事実そうなのですが)、いろいろ情報を探る過程を楽しみつつ、ゆっくりと綴っていこうと思って始めることにしました。当面の目標は息子を相手にキーパーがやれるようになることです。

 

小説、漫画、映画など、ラヴクラフト他、クトゥルフ神話を扱った作品についても書くことがあるかもしれません。

 

というわけで、今後とも宜しくお願いします。